市民が主役の奈良市政をめざす仲川げんの活動日記。

仲川げん
2023年5月 7日 14:45 [奈良市政]

新斎苑訴訟の
和解案が出ました

昨年4月に開業した新斎苑の整備にあたり、一部住民から提訴されていた住民訴訟の確定判決を受け、その後の損害賠償請求訴訟に関して先日3月29日に奈良地方裁判所から和解案が提示(4月25日には和解条項案も)されましたので、現在、臨時市議会で審議がなされています。

今回、裁判所から示された和解案の主な内容は、

・被告仲川は原告(奈良市)に対し、本件の解決金として3000万円の支払義務があることを認める。
・また、被告樋口らも原告(奈良市)に対し、本件の解決金として3000万円の支払義務があることを認める。
・原告(奈良市)は、その余の請求を放棄すること。
というものです。 

制度的にも少し複雑ですので、以下、詳しく解説したいと思います。

まず、既に確定している住民訴訟では、奈良市が建設した新斎苑の用地取得に関し、価格が高すぎると訴えた原告住民の訴えが認められ、土地を売ってくれた元地権者と市の責任者である私個人に対し、奈良市の立場で、実際に支払った金額と鑑定評価額との差額1億1643万705円と遅延損害金を請求せよ、との判決が確定しています。

市の立場としては住民の利益になる火葬場を一日も早く建設することが必要不可欠と考えて、議会の承認も得て予算化し取得した土地が、後から一部の住民が「高すぎたので返せ」というのは無理がある、しかも法律上は用地取得額を決める明確な基準がなく(むしろ「土地価格形成上の諸要素を総合的に比較考量して算出」と示されていて、鑑定評価額通りでなければならないとは定められていない)、また過去の判例でも首長には一定の裁量が認められていること等を主張しましたが、結果的に最高裁(上告不受理)で判決が確定しましたので、その結果は厳粛に受け止める、と私もこれまで会見等で述べてきました。

ちなみに確定した判決の中でも「(同人(仲川のこと)自身の利益を図るなど違法不当な目的のために本件売買契約を締結したことをうかがわせる事情は認められない」と示されています。

話を戻すと、住民訴訟は二段階訴訟制度になっており、一段階目の住民訴訟が確定したことを受け、現在は二段階目の損害賠償請求訴訟にあたります。

注意すべき点は、一段階目の住民訴訟の判決内容は、「奈良市は仲川及び元地権者に対し、1億1643万705円(と遅延損害金)の損害賠償の請求をせよ」というものですが、仲川及び地権者に対しその額の損害賠償を命じたものではない、ということです。

あくまで奈良市に対して、仲川及び元地権者に対する損害賠償請求をせよというにとどまり、実際に仲川及び地権者に対し損害賠償を命じ、強制執行することができる状態にするためには、別途、損害賠償請求訴訟を提起し、そこで損害賠償を命じる判決が確定する必要があります(和解も可)。この制度は地方自治法242条の3第2項が定めているもので、一般的な訴訟とは異なり二段階訴訟の構造になっています。

一段階目の住民訴訟では、鑑定評価額を上回る支出は全額市の損害であると判じられ(一審では土地の価値はゼロ円との判決)ましたが、今回の損害賠償訴訟では前訴の時点では明らかにできなかった、市や市民の受けた利益についても総合的に考慮した上で、裁判所としての和解案が示されています。

ここでポイントは2つあります。まず1点は住民訴訟で確定した損害賠償額をその後の損害賠償請求訴訟で変更できるのか、という点です。これについては地方自治法上、額の変更だけでなく債権自体の放棄も可能とされています。

最近では東京都日野市において、ゴミ運搬用の道路を公園内に建設したのは違法だと一部住民が訴えた住民訴訟で市が敗訴。工事費の約2億5000万円を市長個人に請求するよう判決が確定したものですが、その後の議会で全額債権放棄されています。

また同じ県内の香芝市の事例では、最高裁で確定した住民訴訟の判決で約2億2000万円の返還請求を認めていた(一段階目の訴訟)にも関わらず、その後の二段階目の不当利得返還訴訟では、奈良地裁が1040万円、控訴審の大阪高裁が3170万円と、いずれも前訴判決と異なる額の判決が出ています。

このように、住民訴訟の判決がそのまま無条件にその後の損害賠償請求訴訟を制約するということではなく、地方自治法が住民訴訟と別に損害賠償請求訴訟を設け、直接強制執行できる効果を与えるのは損害賠償請求訴訟であるとしている法制度から考えても、本件でも二段階目の損害賠償請求訴訟で実質的な市の損害について本格的な審理がなされるのは当然であると考えられます。

この議論に対し特に行政法学者からは住民訴訟の意義を損ねるものとの批判もありますが、現行制度上、債権放棄も和解減額も明らかに認められており(さくら市では議会の権利放棄を無効とした高裁判決を最高裁が破棄差し戻し、その後高裁で改めて放棄有効の判決が確定)、また前述のように裁判所自らの判決でも、住民訴訟と異なる判決が散見されることからも矛盾はありません。

もう1点は一段階目の訴訟の効力が二段階目にどこまで及ぶか、いわゆる参加的効力に関する議論です。ここはやや複雑な話ですが、前訴においては原告が一部住民、被告が奈良市でしたが、この裁判に個人の立場の仲川と元地権者が実質的に訴訟参加できたかどうかという点が争点になっており、一年以上審理が続いていました。

民事訴訟法では当事者が実質的に訴訟参加できる「手続保障」を重視しますが、前訴で市と事実上対立関係にあった元地権者が、市と共同して訴訟に参加できる状態であったかどうかという点や、市長の仲川と個人の仲川が同じ主張ができたかどうかという点がポイントです。

少なくとも私に関して言えば、例えば、自己の負担を最小化したいと考える個人の立場では一定の責任を認めて金額面で争うような主張も可能ですが、方や同じ人間の中に存在する市長の立場としては用地取得の手続きや判断には一切問題がない、という主張をするしかありませんので、金額面ではいわば利害のねじれが生じます。行政の長としての責任は争う気は毛頭ありませんが、負うべき損害賠償額については二段階目の訴訟においてしっかりと審議してもらう必要があります。

また前訴の住民訴訟では、大阪高裁の弁論終結時点までに主張できた事実だけが判決の前提事実となりますが、その時点では新斎苑は完成しておらず、当然、合併特例債の活用により実際にどの程度市の財政負担が減ったかについても確定的に示すことはできておらず、また新斎苑の開業後の利用実績によって年間1億2190万5000円の市の収入増につながっている点や、これまでやむなく市外の施設を利用した際に市民が負担していた高額な火葬費用が激減(概算で1億2552万円の負担減)したことによって、市や市民が得た利益については、住民訴訟以降に明らかになったものです。

今回の和解案の中でも裁判所からは「本件売買契約の締結により、原告(市)は、不動産鑑定士の鑑定価格より1億円以上高額な金額を支出することになっていますが、これによって、これを上回る金額の財政負担を免れた可能性が相当程度あったと認められます」「さらに、原告は早期に本件買収地を取得し、早期に新斎苑の供用を開始することができたことによって、相応の経済的利益を取得していることがうかがえます」と、前訴の判決確定以降の行政の展開により市や市民が得た利益を考慮したうえで、仲川個人が3000万円、元地権者が3000万円、計6000万円を市に解決金として支払うことで、長年にわたる一連の訴訟を解決してはどうかという案が提示されたわけです。

市としては、仲川個人と市長仲川の関係性が複雑なこともあり、公正な見地から当該和解案を評価する為、顧問弁護士事務所である関西法律特許事務所からの意見書や、奈良市ガバナンス懇話会での3委員(上智大学法学部の楠茂樹教授、阪口徳雄弁護士、松山治幸公認会計士)からの意見を聴取しました。その結果、いずれの意見においても本和解案を受け入れることが妥当であると示されています。

先日2日には本会議で質疑が行われ、次は火曜日に特別委員会が開かれます。制度や状況は少し複雑ですが、何が市民にとって真の利益になるかは極めてシンプルですので、議会の賢明な判断に期待します。

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