「守る!」社会的に弱い立場の人々を守り抜く! Cover Story『生まれた街で子どもの命に格差が生じてはならない。~児童相談所の開設~』

奈良を元気にする奈良市長仲川げんの公式Webサイトです。

社会的に弱い立場の人々を
守り抜く!

生まれた街で子どもの命に
格差が生じてはならない。

~児童相談所の開設~

子どもや子育て家庭の悩みをワンストップで支援

2022年4月、「奈良市子どもセンター」が柏木公園内の隣に開設されました。親子で遊びながら育児や発達の相談ができる施設として、多くの親子に利用されています。ここには、中核市で4例目となる「児童相談所」(以降、児相)も設置され、虐待のリスクを早期に発見し、支援につなげる体制が整いました。一時保護が必要な子どもを預かる「一時保護所」も併設し、保健所や教育委員会と連携しながら、育児相談、発達支援、虐待対応などをひとつの拠点で受けられる“ワンストップ支援”の場となっています。

子どもセンターで遊ぶ親子の様子(室内)
子どもセンターで遊ぶ親子の様子(室内)

このままでは子どもたちの命を守れない

全国には、児童虐待などの理由で実親と暮らせない子どもが約45,000人いるといわれています。奈良市でも、児童虐待相談の件数は10年間で3倍以上に増加。「奈良市子どもセンター」が開設される前は、奈良県には県営の児相が2カ所あるのみで、その対応には限界がありました。
さらに、虐待対応は時間との勝負であるにもかかわらず、制度上の問題から、市が県の判断を待たなければ、一時保護の判断ができないという課題もありました。当時、市内でも複数の重症事例が発生しており、「子どもたちの命が守れないような行政は存在意義がない」と強く感じたことから、奈良市独自で児相を持つべきだと決意しました。

子どもセンターで遊ぶ親子の様子(室外)
子どもセンターで遊ぶ親子の様子(室外)

児童相談所の開設に向けて動く

さっそく全国の首長有志で勉強会を開催し、社会的養護についての課題を共有、具体的な解決策を模索し始めました。2016年には、三重県の鈴木英敬知事(当時)の提案で「子どもの家庭養育推進官民協議会」を設立、行政だけでなく民間も巻き込んだ社会運動として官民連携による取り組みがスタート。また、当時会長を務めていた中核市市長会でも、当時の塩崎恭久厚生労働大臣や超党派の議員とも議論を重ねたことで、児童福祉法が改正され、中核市の児相設置に対する政府の支援措置が明確に規定されました。これは奈良市のみならず、全国に子どもの命を虐待から守る「きめ細かい網の目」が行き渡る大きなきっかけとなりました。

実は、当時は子どもの社会的養護に関心を持つ自治体は少なく、悲惨な事件が起きた街が、慌てて体制を強化するような弥縫策(びほうさく)が散見される程度でした。法律上、都道府県や政令指定都市には児相の設置が義務付けられていますが、中核市での設置は横須賀市と金沢市の2市に留まっており、設置に前向きな市は奈良市と明石市ぐらいで、他は様子見の状態でした。また、既に設置している都道府県等でも首長の意識差が相当大きく、当時人口180万人の三重県では6カ所目の児相設置に取り組む一方(人口30万人あたり一カ所)、児相が2カ所しかない人口130万人の奈良県とでは、一つの児相が抱える管轄人口に2倍以上の差がありました。まさに政治の果たす役割が大きいと実感する事例です。

これ以上、悲惨な事件を起こさせない。そのためには、奈良市のような保健所を持つ中核市がその強みを活かし、妊娠から出産までの母子保健を担う保健所と、幼児教育を担う子ども部局、義務教育を所管する教育委員会、そして福祉部局が一気通貫で、子育て家庭の悩みや困難をサポートすることが、極めて重要であり有効だと考えました。

「閉ざされた施設」から
「市民や地域に開かれた空間」へ

児相を開設するにあたり、市民の誤解や偏見を払拭することも重要でした。当時は東京の青山で「児相ができると治安が悪化する」といった誤解が広がり、連日反対運動がニュースで取り上げられており、職員も当初はとても心配していました。
そこで参考にしたのは、同じ中核市である金沢市の先行事例。そこでは、従来の“塀に囲まれた施設”というイメージを覆し、家庭的な雰囲気のデザインやガラス張りの中庭を採用し、子どもたちが自由に安心して過ごせる環境を整えていました。こうした発想をヒントに、奈良市では、児童相談所が“閉ざされた施設”ではなく、市民や地域に開かれた空間となるよう工夫したことで、近隣にお住いの方々の理解にもつながったと思います。

また、虐待事案の多くは、ある日突然起きるのではなく、その背景や前兆をいかに未然に察知して介入や支援につなげるか、が重要です。奈良市の子どもセンターには、親子が遊びながらちょっとした悩みを話すことで、深刻化する前に支援につなげる場を設けています。

子どもセンターの「子育てひろば」で遊ぶ子どもたち
子どもセンターの「子育てひろば」で遊ぶ子どもたち

“奈良市の子ども”を
市民のみなさんと共に守っていく

子どもが家庭的な空間の中で安心して日々を過ごせること。生まれた環境によって成長機会になるべく格差を生じさせないこと。人生100年時代といわれる中で、子どもが「子どもとして」いられる時間はわずかです。この貴重な成長機会にどれだけ多くの人と出会い、支えや刺激を受けられるかが、その後の生き方に大きく影響を与えます。たまたま生まれた家庭環境に課題があっても、市民全員が第二、第三の親として関わり、支え合える社会をつくっていきたい。そういう想いを胸に、児相を開設しました。

おかげさまで、奈良市子どもセンターには全国から視察が相次ぐなど、新しいモデルケースとして注目を集めています。最近では奈良市に続き、尼崎市や宮崎市でも児相設置に向けた動きが出てくるなど、社会全体で前向きな流れが生まれています。
まだまだ課題はありますが、これからも、子どもたちの命と未来を守るために、挑戦を続けていきます。

完成した子どもセンターの全景
完成した子どもセンターの全景

「守る!」代表的な取り組み①
フードバンクセンターの開設

市民からの
お声

ひとり親家庭や生活に困っている家庭への支援として、食料の無償提供があると耳にしました。物価が高騰する中で、日々の食費は大きな負担です。どのような仕組みで支援が行われているのか、また、私たち市民が協力できることがあれば教えてください。

奈良市の取り組み

収入が不安定で物価高騰の影響を受けやすい、ひとり親家庭や生活困窮家庭を支援するため、奈良市では「フードバンク事業」を展開しています。まだ食べられる食品の有効活用と食品ロスを削減するため、企業や個人から寄附していただいた余剰食品を、2020年に旧佐紀幼稚園跡に開設した「奈良市フードバンクセンター」で仕分けを行い、必要とする家庭や市内の子ども食堂などに無償で提供しています。
また、コロナ禍では、生活困窮家庭約3,500世帯を対象に月5kg(年間60kg)の米の無償提供や、夏休み等長期休暇中の食の支援を実施するなど、さまざまな取り組みを展開し、現在も継続しています。

  • 奈良市子ども育成課(二条大路南1-1-1)(月~金 9時~17時)
  • 奈良市フードバンクセンター(佐紀町2715)(火・木・金 10時~16時)
フードバンク奈良の皆さんと一緒に
フードバンク奈良の皆さんと一緒に

仲川げんの視点

奈良市のフードバンク事業は、「日々の食に困っている子育て世帯」を中心に、ひとり親家庭や生活困窮家庭に対する支援の輪を広げる活動です。奈良市では、「まだ食べられるのに捨てられてしまう食品」が年間約1,559トンもあり、この“もったいない”を、“ありがとう”に変える取り組みです。
この取り組みは、単なる食品支援ではありません。市民、企業、NPO、行政が一体となって支え合う、地域のセーフティネットとしての意義を持っています。特に、物価高騰や孤立といった課題が深まる昨今では、こうした「つながりの力」がいっそう重要になっています。
おかげさまで、たくさんの皆さんに寄附の協力をいただいていますが、支援を必要とする世帯数に対して、まだまだ足りていないという課題もあります。
フードバンク奈良の皆さんと一緒に、支援の輪をさらに広げ、「困ったときに頼れる奈良市」であり続けたいと思います。

「守る!」代表的な取り組み②
フリースクールの拡充

市民からの
お声

最近、学校に行けない子どもが増えていると聞きます。うちの子も学校に行きづらさを感じているようで、このまま無理に通わせるよりも、この子らしく、自分のペースで学べる場所が他にないかと感じています。奈良市ではどんな支援がありますか。

奈良市の取り組み

奈良市では、不登校の児童生徒が増加する中、多様な学びを保障するための取り組みを強化しています。市内には現在、教育支援センター「HOP」、公設フリースクール「HOP青山」「HOPあやめ池」、そしてオンライン学習支援を行う「Web HOP」が設置されています。これらの拠点では、学習支援だけでなく、体験型活動やアート、地域との交流など、子どもたちの興味関心に応じた学びの場を提供しています。
HOPあやめ池では、0~3歳の児童およびその保護者と、不登校児童生徒が交流する取り組みも展開しており、児童生徒の自己有用感の向上や社会的自立にもつながっています。さらに、学校内の空き教室を活用した「校内フリースクール」のモデル実施も開始し、通い慣れた環境で安心して過ごせる場の整備も進めています。

公設フリースクールHOPあやめ池
公設フリースクールHOPあやめ池
HOPあやめ池の室内
HOPあやめ池の室内

仲川げんの視点

不登校は、子どもたちの学習権や生存権に関わる重大な問題です。子ども時代の時間は、大人のようにやり直すことが難しい、とても貴重な時間だといえます。一人ひとりの事情に合わせて、その子らしく学び、育っていける環境を整えることが何よりも大切だと思います。
これまでは「学校に戻すこと」が目的になりがちだった支援のあり方も、大きな転換を求められています。奈良市では、多様な学びを保障することを最優先に、学校外の学びの場の整備やオンライン支援など、柔軟な選択肢を広げてきました。
ただ、こうした取り組みの多くは国からの十分な財政支援が得られていないのが現状です。先駆的な取り組みを進める、つくば市や岐阜市の市長、全国の中核市とも連携し、現場の声を国に届ける活動も行っています。
すべての子どもが、「学ぶことをあきらめないでいい社会」を奈良から実現していきます。